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 細く、骨の浮いた肩口を思い切り噛んでやった。
「あ!」
 短い悲鳴。
 深く入り込んだ「己」を、奴は一瞬きつく締め付ける。
 食いちぎってやるつもりで噛んだ薄い肉から、さびた鉄の味が口の中に広がる。
 欲望に粘る舌で嘗めあげてやると、奴はオレを
 見下したように 薄く笑った。
「・・・いつも思うのですが」
 酷薄な唇が、笑いの形を乗せたまま囁く。
「あなたは猛ってくると、僕にかみつくんですよね」
 オレは何も応えず、奴の首筋に新しい傷を作った。
「!・・・う・・・っ」
 奴の額に薄く浮かぶ汗を見ながら




 このまま食いちぎって 流れ出る血を啜り尽くしてやろうか




 とまで思う。

 猛って来るから、じゃあない。
 オレは、こいつを・・・




 かみ砕いて咀嚼して、飲み込んでやりたい。
 「高遠」という毒で、己の腹を満たしてみたい。




 熱く滾る焼けた鉄のような己で
 貫くだけでは・・・
 まだ 足りない。


「怖いか?オレが」
 思いっきり粗野に笑って見せながら、物にでも問う様に聞いてやる。
「・・・しつけの悪い犬を相手にしてるようですよ」
「ふん・・・言って笑ってろ」
 思う様、突き上げて。
 断末魔に向かって、短い悲鳴を上げさせて。
 それでも高遠は 苦痛に歪む顔で オレを見上げて薄く笑い続ける。




 笑ってろ。
 だが、待ってろよ・・・。
 少しずつ耐性をつけて
 いつか、お前を喰らい尽くしてやる――――――――






                                        end



03/2/16 up