おだやかな毒





たわむれに  

手折った赤い薔薇の棘に  男は 黙ったまま 親指を 添えた。


−−−刺なんてものはな 正面から当たるから傷付けられるんだ。


そう言って 男は 横に添えた指を 内側に 折曲げる

途端に 棘は ほとり  と  茎からその身を離した。


−−−ほうら、な?


男が 得意そうに広げて見せた 指腹に見つけたものに
情人は くすり と ひそやかに笑い・・・

男の 人差し指を その薄情な唇に押し当てて
小さく けれども斜めにぱくりと 深く えぐられた
血が流れ出す寸前の 桃色をした肉に 赤い舌を這わす。


−−−容易く折れはしても 強靭で したたかな棘のようですね。
     ほら、あなたも気づかぬ内にこうやって 傷をつける・・・


男は ほんの少しだけ 痛みに眉をひそめ
己の 血に濡れた 情人の 唇に口ずけを 落とすと


今は まだ 致命傷には至らないさ


と 口元で薄く笑った。



END