秘密の放課後



「明智さん、試験の山教えて貰う約束だったよね〜?放課後、例の公園で待ってるから!絶対来てよ?」
「あ、ちょっと金田一くん!?」

 いつもいつもこちらの仕事の暇な時を見計らったように、金田一くんは一方的に約束を取り付ける。
 ちょうど学校の昼休みの時間に、直接私の携帯に電話してくるのだ。
 金田一くんからの着信を示す「となりのトトロ」の主題歌が疎ましい。
 
 ちなみに私の名誉のために『いつもいっっそがしくてて〜へんな仕事してるんだから、俺からの電話で癒されましょうね♪』などと勝手に入れてしまった事を付け加えておく。
 
まあ、実際剣持さん辺りにそれとなくあたりを付けての上なのでしょうが・・・何となくしゃくではある。
しかし、約束したからと言って律儀に放課後待ち合わせた公園に出かけていく私も、どうかしてる・・・



「明智さん、ここ!ここんとこがわかんないよ〜!」
「まあ、君の事ですから大方の悲惨な状況は予測してましたが・・・こんな初歩の問題も解けないんですか?」
わざと盛大にため息を付いてみせる。
「・・・高校は義務教育じゃないのは知ってるんですよね?」
金田一くんは、いやその、と一応反省するポーズを取ってみせる。どこまで信用できる物やら・・・

一応、金田一くんを横目でじろりと睨んでから、彼が解らないと言う数式のノートに無言で公式の続きを書き込んでいく。
さらさらとシャーペンの走る先を、金田一くんはおとなしく眺める。
「・・・さ、解りましたか?」

それは、ほんの一瞬。
顔を上げた、すぐそば。 
吐息が掛かるほど近くに 金田一くんの瞳が有った。
私は何故だかいたたまれなくなって 数式のノートにもう一度視線を落とす。

「この公式を使えば、大抵の問題は解けるはずですよ。途中まではどうにか合ってるんですから。もっと性根を入れて勉強しなさい」
「あ、明智さん、じっとして!そのまま・・・」
「え?」


いぶかしる暇もなく、何かがふわりとつむじの辺りをかすめた。


「・・・ほれ、葉っぱ、ついてたぜ」
いつの間にか首の後ろからつまみ出した常緑樹の葉を、にっと笑って金田一くんが差し出しす。
「〜〜〜〜!貸し、一つですよっ!」
「え?なんのこと〜?♪」
してやったり、と、金田一くんが笑う。


いつの間にか金田一くんがテリトリーに入り込むのを こんな風に許してしまう自分。
本当に、どうかしてる・・・・・

「ああ、風が出てきたね。なんかさあ、もう夏の風だよね!」
こちらの戸惑いなど素知らぬ風に、金田一くんは立ち上がったまま大きく伸びをする。

折からの初夏の風が、ひんやりと火照った頬を冷やしてくれる。
「そうですね」と相づちを打ったあと、一つ咳払いをして
「ぼやぼやしてたら、夏休みも補修で過ごすことになりかねませんね。まじめに勉強しないなら帰りますよ?」
と、釘をさすことを、私は忘れなかった―――――――――――――――――――