昔見た夢

その夢はいつも飛び交う怒号の中から始まる。
 狭い通路、ひっくり返りそうな振動の中銃を手に走り回る軍人達。
 その軍人達は、必死に先へ進もうとする僕の行く手を阻んでて・・・。
 
 ああ、そうだ、ここはルナツー基地なんだ。
 じゃあやってきたのは・・・あいつだ。
 他の誰に解らなくても僕には解る。
 あいつがガンダムを強奪しに、やってきたんだ!

 こんな所で何も解らない大人に付き合ってる場合じゃない
 急がなくちゃ!急いであいつの所に行かなくては・・・!!
 僕はくるりと反転し、床を蹴って無重力の中へ泳ぎ出す。
 MSデッキへ続く薄暗い通路の空調は何故か重く体にまとわりついて。
 僕は急いた気持ちとは裏腹にのろのろとしか進めなくて。
 突然、目の前の通との床がすとん!と抜けた。
 宇宙<そら>特有の無重力の筈なのに、僕の体は抜け落ちた穴の中へと落ちていく。
 気が付けば、そこはMSデッキで。
 僕の目は、艀の上に居る二人の人間を捕らえる。

 あいつだ!
 遠目にしか認められなくても、顔を知らなくても。
 僕は目の前でもみ合ってる男をあいつだと確認した。
 そしてもう一人。
 いけない!なんであなたがこんな所に居るんだ!
 そいつはだめだ、駄目なんだよ!あなたが殺されてしまう・・・!!
 そいつを・・・その男をやるのは、僕なんだ!!!

 僕は無我夢中でその辺に投げてあったパイプをつかみ、男に躍りかかる。
 突然の閃光と衝撃、熱とオゾンの臭い。すべては一瞬だった。
 男は、だらしなく強かに背中を打った僕を見て、嘲笑した。

 こいつ・・・こいつ!こいつっ!!

 痺れて動かなくなった指に、ひやりとした金属が触れ、僕は無意識にそれを手繰り寄せる。
 がっしりと分厚い鋼。やっと持ち上げたずしりと重い胴。必死に持ち上げた物を顔の前に掲げると、鈍色に光る刀身から誰かが、僕を見ていた。

 いや、違う。これは僕の目だ。
 僕の目が、僕の顔が写り込むこれは。
 太古から続く数多の戦いを繰り抜けてきた、伝説の中の生きる剣。
 それを持つ物に無限の力をもたらす勇者の剣!
 その剣は今打ち上がった様に刃こぼれ一つなく、荘厳な輝きを放ちながら僕の手に有る!
 これでならば、僕はあいつをやれる!!!
 心臓が早鐘を打つ。この、獣のような息づかいは誰の物だろう。
 
「う・・・うわああああっ!!」

 雄叫びを上げながら渾身の力を込めて突き出された僕の腕、穿つ肉の感触。
 目の前にゆっくりと頽れて行く、絹のように煙るブロンドと細い肩。


 
 そ・・・んな!
 違う、違う!セイラさん、どうしてあなたが・・・!!

 “アムロ・・・あ、あ、アム・・・ロ”

 ああ、セイラさんセイラさんセイラさん・・・・!
 なぜ、あなたが・・・。
 いや、そんなことは取りあえず今は、いい!!
 
 僕は目の前で不敵に笑う男をにらみつける。
 激しい憤り、憎悪と興奮。
 
 やらなければ!コイツを倒さなければ・・・!!

 瞬間的な感情の爆発。目の前が真っ白になった。
 今度こそ僕の剣は過たず目の前の男の腹部を差し貫いた。

 男の体が、貫かれる衝撃にその体重をきびすに掛け傾いた。
 ああ、しかしなんと言うことだろう!!
 差し貫いた僕の剣を男は平然と握り、苦痛に歪んで居なければならぬはずの
 その顔は、その紅い唇は・・・・
 僕に向かって艶然と微笑んでいる。
 “ア・・・ムロ”

 男の唇が、苦痛と、苦痛とは別の感覚に酔ったように
 知るはずのない僕の名前を形作る。
 
 “っあ・・・っ!”

 ぎょっとして剣を抜き取ろうとする僕の手を、男が押しとどめる。
 その感覚にきつく閉じた瞳をゆっくりと開いて。男がもう一度
 僕の名前をうっとりとした声色で呼ぶ。

 よせ、やめろ!貴様は僕の名前を知らないのに!
 貴様は僕を知らないのに!なんで、そんな目で、僕を見るんだ!
 
 “アムロ・・・”

 気が付くと倒れ伏していたはずのセイラさんが、男と同じ様な声で
 男にしなだれかかるように僕の名を呼んだ。

 やめろ・・・やめてくれ!!
 セイラさん、あなたが・・・あなたは!
 貴様が・・・貴様は僕が!・・・!

 「シャアぁぁっ!!!」

 目の前の二人はそのうち金色に煙る霧になって、僕を押し包んで
 僕は霧の中に飲み込まれて意識を失って・・・・

 


◇◇◇


「・・・って言う夢を、あなたにルナツーで初めて会った直後、なぜだか見続けてさ」
 あなたはきっと覚えて居ないだろうけど、と俺は目の前で、俺より先に食事を食べ終わって既にコーヒーを飲んでいる男に言った。
「・・・アムロ、その夢を他の誰かに話したことは?」
「ん、そうだなあ・・・。あ、WBの年上の尉官に話したこと有るよ」
「それで何か言われなかったか?」
「うーん、良く覚えてないんだけどなんか苦笑いされちゃったな。あ、そう言えばそれからしばらくしてなんか秘蔵のポルノフィルムだとかグラビア雑誌とか渡されてさ、がんばれよ!とか思春期は色々あるさ、とか色々・・・なんか有るの?」
「・・・・・・・・・」
「???」
 男が俺の好きな綺麗な額に不機嫌な縦皺を寄せて、なんだかため息を付きながら、俺の目の前の目玉焼きが乗った皿を下げた。
「・・・あ!なにすんだよ、シャア。まだ食べて無いのに」
「うるさい。こんな不埒な男に食わせる目玉焼きは無い!」
「なんだよ、もう。訳わかんねぇ」
 食いかけの物が乗っていようと居まいとお構いなしに、無言のまま次々と皿を下げ始める少し赤くなったシャアの不機嫌な顔にあっけに取られながらも、ああ、こんな顔も素敵だな、などと俺の頭は幸せな妄想に浸る。と、きっ!と青い目が俺をにらんで
「貴様は当分、アルテイシアに近寄るな」と、訳も分からず怒られた。
「ぷ・・・」
「何だ!?」
「いいや、何でもないよ・・・所で俺はこのまま朝食抜きなわけ?」
 そうぼやきながら俺は。振り返ったシャアの唇をキスで塞いだ。
「・・・朝食の代わり、ご馳走様v」
 満面の笑みを浮かべた俺と、うむむ、と唸る?シャア。
 シャアの不機嫌な理由は分からないけれど、俺は笑いながら、こんな幸せな朝がこれからもずっと続きますように、と心から祈った―――――。
 

END






えと・・・。聞きかじった知識のみで書いてしまって申し訳ないのですが(笑)夢の中に出てくる長い物(煙突とか棒とか)や突き刺す物(剣や槍)は男性性器を表すという話を思い出してこういうのも面白いかな〜?と安彦御大「オリジン」設定でちょっと書いてみました(笑)つまり15歳アムロ君の無意識下でのリビドーは、既にむっちり金髪兄妹に向いていたんだよ、という身も蓋もなくお馬鹿なお話でございます。(こんな話をCCA後設定話に持ってくるなー!笑)でも本当にアムロってば分からないんだろうか・・・天然かも。取りあえず「アムロとシャアはCCA後も生きていてどこかで幸せに二人で暮らしてる」お話を私も書いてみたいのでした(苦笑)もーこってこてなんですがおつき合い下さると幸いです(笑)。

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